AI半導体ブームで本当に儲かるのは誰か — 製造装置・素材の「縁の下」5社【業界の縁の下 #001】

公開日:2026年5月13日 / 更新日:2026年5月17日 / 読了目安:8分

NVIDIAの株価ばかりが話題になります。しかし、最も静かに、最も大きな利益を出している企業群は別にいるのです。

この記事を読み終えると、業界の表に出ない「縁の下」5社の構造が分かり、自社の業界にも同じ視点を当てはめられるようになります。

書き手は、AI実装と4社の経営文脈を持つ立場から、海外IRデータと自分の検証経験を組み合わせて整理しました。「半導体は専門外なので難しそう」と感じている方もご安心ください。3つの数字さえ押さえれば、業界の本質が見えます。

私自身、最初に ASML の粗利益率53.7%という数字を見た時、半信半疑でした。製造業でこの水準は通常ありえません。「データの取り違えではないか」と何度も決算資料を読み直したほどです。それくらい、設計の華やかさの裏で「縁の下」企業の収益構造は突き抜けています。

1.NVIDIA 一強の裏で起きていること

ここでは、2026年の半導体市場で何が起きているかを整理します。

2026年の世界半導体市場は、3年連続の成長を記録する見込みです。ロジック市場は前年比32.1%増、メモリ市場は39.4%増。市場全体は2030年に1兆ドル(約140兆円)規模へ拡大する予測が出ています。

この需要拡大の裏で、最も恩恵を受けるのは誰でしょうか。

答えは単純ではありません。「設計」「製造装置」「素材」「ファウンドリ」「後工程」の5つの層があり、それぞれ独占度と利益構造がまったく違うのです。

2.半導体製造のバリューチェーン全体図

ここまで読んで、「専門用語が多くて分からない」と感じた方もご安心ください。次の図で、5層の関係を一気に整理します。

半導体製造のバリューチェーン5層構造
半導体製造のバリューチェーン5層構造

NVIDIA や AMD が活躍するのは左端の「設計」層。ここは華やかですが、競合圧力が常にあります(Intel・Qualcomm・Apple Silicon・中国新興)。

一方、中央の「製造装置」「素材」「後工程」の層は、特定企業がほぼ独占しているのです。なぜなら、技術障壁が高く、新規参入が極めて難しいから。だからこそ、需要が増えれば、独占企業の収益が直接押し上げられる構造になっています。

3.縁の下 5社の徹底比較

ここからは、半導体製造の縁の下を支える5社を1社ずつ見ていきます。各社の世界シェア・利益率・競合の有無を並べると、構造がはっきり見えてきます。

3-1.① ASML(オランダ・露光装置)

EUV(極端紫外線)露光装置の世界シェアは 80%以上。次世代の高NA EUV装置も独占。最先端半導体の製造に、ASML の装置なしには不可能な構造になっています。

  • 2025年Q2 売上: 76.9億ユーロ(約 1.3兆円)
  • 粗利益率: 53.7%
  • 競合不在: ニコン・キヤノンは EUV から撤退済

1台 約400億円の EUV 装置を、世界中のファウンドリが待ち望んでいます。納期管理が経営判断になるほどです。

3-2.② 東京エレクトロン(日本・前工程装置)

半導体製造装置全体で世界シェア 30%超、世界第4位。日本企業として唯一、米3大装置メーカー(Applied Materials・Lam Research・KLA)と並ぶスケールです。

  • 2026年2月期決算: DRAM・AI向け装置需要が極めて強い
  • 強み: コータ・デベロッパ(レジスト塗布装置)で世界シェア90%
  • 株主構成: 外国人持株比率約50%(海外投資家からの評価高)

NVIDIA の GPU を製造する TSMC 工場の中に、必ず東京エレクトロンの装置があります。

ここまでで分かったのは、半導体の表で戦うのは NVIDIA や TSMC ですが、その「裏で必ず使われている装置」を独占している企業が存在するという事実です。ASML と東京エレクトロンは、その代表例です。続く3社では「素材」と「後工程」の独占構造を見ていきます。

3-3.③ 信越化学工業(日本・シリコンウェハー)

半導体の「土台」となる300mmシリコンウェハーで 世界シェア30%、世界1位。複合素材メーカーでありながら、半導体素材事業の営業利益率は 30%超です。

  • 2026年3月期上期 シリコン事業 営業利益率: 26%
  • 強み: 塩化ビニル樹脂など複数分野で世界トップ(複合ニッチトップ戦略)
  • 競合: SUMCO(日本2位)・GlobalWafers(台湾)

たとえばAI チップの製造数が増えるほど、ウェハー需要は直線的に増える構造です。だからこそ、設計の競争に巻き込まれない、安定した収益源と言えます。

3-4.④ SUMCO(日本・シリコンウェハー)

シリコンウェハー世界2位。経産省から750億円の支援を受け、九州工場を拡張中です。

  • 2025年12月期: 売上4,096億円(増収)/ 最終損益 117億円の赤字
  • 赤字の理由: 需要回復遅延 + 大型投資の減価償却負担
  • 長期視点: AI需要の拡大局面では再び高収益体質に戻る公算

信越化学と比較すると業績差が大きく出ていますが、これは経営戦略(複合 vs 専業)の違いを浮き彫りにする好例なのです。

3-5.⑤ ディスコ(日本・ダイシング装置)

半導体ウェハーを個別チップに切り分ける「ダイシング装置」で 世界シェア70〜80%。後工程の入口を独占している企業です。

  • 2024年3月期 売上: 3,075億円(過去最高更新)
  • 営業利益: 1,214億円 / 営業利益率39.5%
  • 製造業の常識「営業利益率10%超で優秀」を圧倒的に超える数字

10年以上にわたり営業利益率30%以上を維持している、日本企業の中でも珍しい「持続的高収益」型です。

4.AI 半導体ブームで「どこ」に収益が落ちるか

ここまでで大事なのは1つだけです。独占度が高いほど、営業利益率も高いという事実。

5社の比較を整理します。

企業 製品 世界シェア 営業利益率 競合圧力
ASML EUV露光装置 80%以上 53.7%(粗利益率) ほぼなし
東京エレクトロン 前工程装置 30%超 20%台 米3社と競合
信越化学 シリコンウェハー 30% 30%超 SUMCO等
SUMCO シリコンウェハー 世界2位 赤字転落中 信越化学等
ディスコ ダイシング装置 70-80% 39.5% ほぼなし

NVIDIA や AMD のような「設計」企業は競争が激しく、技術革新の波に常にさらされます。一方、ASML・ディスコ・信越化学のように「縁の下」で独占を確立している企業は、ブームの規模に応じて収益が直線的に伸びる構造になっています。

そして重要なのは、これらの企業の多くが日本企業であるという事実なのです。

5.中小経営者への示唆

この構造を、自社の業界に置き換えて考えてみてください。

あなたの業界にも、「縁の下」のポジションがあるはずです。

  • 表のスター企業の「下」で、絶対に必要だが目立たない役割
  • 独占度が高く、競合圧力が低い領域
  • ブームの規模に応じて収益が伸びる構造

パナソニックの創業者 松下幸之助さんの言葉に、こんなものがあります。

「事業の繁栄は、お客様に必要とされる存在であり続けることから始まる」

必要とされる場所は、表ではなく、縁の下にあることが多いのです。

自社の業界の「縁の下」を発見する3つの視点を、最後に整理しておきます。

  1. 表のスター企業が、何を仕入れているかを辿る
  2. その仕入れ先の中で、競合が3社以下になっている領域を探す
  3. そこで、過去5年の営業利益率推移を確認する

営業利益率が30%を超える領域があれば、それが「縁の下」のポジションなのです。

6.まとめ

AI 半導体ブームで最も儲かっているのは、NVIDIA だけではありません。

設計の華やかさの裏で、製造装置と素材を独占する5社が、ブームの規模そのものを利益に変えているのです。

そして、その多くが日本企業である事実は、中小企業経営者にとっても示唆深いと言えます。

「表のスター」と「縁の下」のどちらに自社が位置しているのか。位置していないなら、どこに移れるのか。今週の経営判断の材料に、この問いを加えてみてください。

あなたの業界の「縁の下」は、誰でしょうか? 同じ視点で観察している方、いらっしゃれば教えてください。

FAQよくある質問

ASMLが世界シェア80%以上を維持できる理由は何ですか?

EUV露光装置の技術障壁が極めて高く、ニコン・キヤノンが撤退済みで実質的な競合が存在しないためです。次世代の高NA EUV装置も独占しており、最先端半導体の製造にASMLの装置なしには不可能な構造になっています。

日本企業のうち、最も注目すべきは1社挙げるならどこですか?

営業利益率39.5%を10年以上維持しているディスコです。後工程の入口となるダイシング装置で世界シェア70-80%を持ち、製造業の常識「営業利益率10%超で優秀」を圧倒的に超える数字を維持しています。

信越化学とSUMCOの業績差はなぜここまで開いているのですか?

経営戦略の違いです。信越化学は塩化ビニル樹脂など複数分野で世界トップを取る「複合ニッチトップ戦略」、SUMCOはシリコンウェハー専業。需要回復遅延+大型投資の減価償却負担で短期的には差が出ていますが、AI需要拡大局面では再び高収益体質に戻る見込みです。

中小企業経営者は、この記事をどう活かせばよいですか?

自社の業界にも「縁の下」のポジションがあります。①表のスター企業が何を仕入れているか辿る ②競合が3社以下の領域を探す ③過去5年の営業利益率推移を確認する、の3ステップで発掘できます。

「業界の縁の下」シリーズ一覧

R

二角 怜治(Reiji Futakado)

複数の事業会社で経営に関わりながら、AI 実装で業務効率化を推進。海外IR資料・公的データ・実装現場の数字を組み合わせて、業界の構造を読み解くことを得意とします。本サイト「業界の縁の下」は、表に出ない高収益企業の構造を発掘するシリーズです。


※本記事は経営判断の参考情報であり、投資推奨ではありません。各社の業績は決算資料・公開IR資料をもとに2026年5月13日時点で構成しています。

Related posts

  1. EV業界の縁の下:BYD「ラッコ」上陸の裏で、日本企業5社が築いているポジション【業界の縁の下 #002】

  2. CTV広告業界の縁の下:Trade Desk が独占する中立ポジション【業界の縁の下 #003】